世界の「食えない」を見に行く

世界を食べ歩く硬派なグルメ本と思ってカレーなど食べながら読み始めると、第1章の「残飯市場」でのけぞってしまう。

共同通信社の元記者である辺見庸氏が、20年前に出版した『もの食う人々』。大学時代に「海外事情研究会」というサークルの仲間が絶賛していたのを今も覚えている。名著は読んでおくべき、と改めて思う。20年が経った今も色あせない。20年が過ぎても、世界の食や貧困をめぐる諸問題は変わっていないということだ。

「残飯市場」とはバングラデシュの話。当時、世界の最貧国と言われていたバングラデシュでは、富裕層の食べ残した残飯が回収され、貧しい者の食糧として市場で売られていた。腐敗臭を線香の煙でごまかしながら。古くなればなるほど値段は下がり、さらに貧しい者へと渡っていくという。

20年が過ぎ、ファストファッションの一大産地となった今も同じ状況なのかどうかは分からない。ただ1億5千万人を超える人口が、ガンジス川河口の水害の多い狭い国土に暮らしている状況は変わらない。最近では全土に及ぶ停電がニュースになっていた。貧富の差はむしろ広がっているかもしれない。

世界の「食う」「食えない」をめぐる旅は、衝撃の連続だ。まだ前半しか読んでいないがなかでもショッキングなのは、フィリピン・ミンダナオ島で旧日本兵が現地人を襲って食べて生きのびたという事実…。現地を案内してくれた老農民の描写がリアルで、ちょっとここに書き写すのも躊躇してしまうほどだ。

20年後の現在の日本につながる話もいくつかある。バングラデシュで、救済を受ける難民キャンプと周辺の貧しい農民との軋轢は、少し前に話題になった生活保護の問題を思わせる。また、ドイツの「ドネルケバブ」の広がりとネオナチの台頭は、最近騒ぎとなっているヘイトスピーチにつながるものがある。

後半、食をめぐる旅はチェルノブイリへと向かう。まだ日本で原発災害が起こるなどとは想像すらしていなかった頃に、チェルノブイリに何を見たのか。心して読み進めたい。カレーは食べないでおこう。

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